2007年の競馬、中でも牝馬クラシックは「ダイワスカーレット」「ウォッカ」で話が持ちきりでした。
「逃げのダイワスカーレットが強い!」
「差し切る競馬のウォッカが強い!」
等々、牡馬クラシックなんてなんのその。競馬ファンの話題は2頭に集中したのです。
そんな中、2頭の存在に隠れながら、史上2頭目となる偉業を成し遂げた名馬がいます。
その馬は「アストンマーチャン」です。
ダイワスカーレット、ウォッカと同じ世代であり両者と対決したこともあります。
残念ながら、両者に勝てませんでしたが「記録」そして「記憶」を競馬ファンに焼き付けた1頭です。
彼女はどんな馬だったのか?誕生から4歳時の悲劇まで解説していきます。
2004年にアストンマーチャン誕生|女性医師との運命的な出会いを果たす
アストンマーチャンが誕生したのは「2004年3月5日」のことです。
「父:アドマイヤコジーン」「母:ラスリングカプス」の血統です。
アドマイヤコジーン:朝日杯FS、安田記念を制覇。高松宮記念・スプリンターズSどちらも2着
ラスリングカプス:父「ウッドマン」は種牡馬として「ヒシアケボノ」を輩出。子供に期待されていた
アドマイヤコジーンのような「葦毛(あしげ)」になると思っていましたが、毛色は「鹿毛(かげ)」。
おとなしくて可愛らしい牝馬が誕生しました。
誕生したのは良いものの、ここで1つ問題がありました。
それは、アドマイヤコジーンの「初年度産駒」と言うことです。
初年度産駒は「馬場適性は?」「距離はどこまで持つ?」「性格は?」等々、適性や特徴を掴みづらく、買い手が少ない!時には買い手がつかない時もあります。
しかし!女性医師の「戸佐眞弓」氏と運命的な出会いを果たします。
買い手がつかない危険性はあったものの、眞弓氏が馬主となり「アストンマーチャン」の名前をいただいたのです。
アストンマーチャンに敵なし!?阪神JFに待ち受ける強敵とは?
小倉2歳S&ファンタジーSを勝利|レコード更新&重賞連勝で勢いに乗る
アストンマーチャンは小倉競馬場でデビューすると、飛ぶ鳥を落とす勢いで勝ち上がっていきます。
新馬戦こそ負けたが、単勝オッズ1.3倍の未勝利戦で勝利すると、1ヶ月後の「小倉2歳S」に出走。
デビューして僅か2年目の「鮫島良太」騎手でしたが、後方に2馬身差を付ける圧勝劇です。
この時、父アドマイヤコジーン、デビュー2年目の鮫島騎手にとって初の重賞タイトルになりました。
2ヶ月の放牧の後に出走したのは「ファンタジーS」です。
ここには、後にアイビスSDやセントウルSを勝利する「カヤノザクラ」札幌2歳S3着の「イクスキューズ」等、実力馬揃いです。
ですが、ここでもアストンマーチャンは1枚も2枚も抜けていました。
2番手のイクスキューズに5馬身差を付けて圧勝!ファンタジーSのレコードを「0.9秒」も更新するほどです。
レコード更新&重賞連勝で勢いに乗るアストンマーチャン。
次のレースは「阪神ジュベナイルフィリーズ(以下「阪神JF」)」に定め準備を進めますが、ここで後の顕彰馬と初対決になります。
阪神JFでウォッカと初対決!接戦を制したのはどっち?
2006年の阪神JFは「アストンマーチャンが勝つ!」と誰もが推すほどの人気でした。
単勝オッズはなんと「1.6倍」2番人気のルミナスハーバーは「8.9倍」のため、どれだけ人気だったかが分かります。
ですが4番人気に、2007年に牝馬で64年ぶりに日本ダービーを制し、後の顕彰馬となる「ウォッカ」がいたのです。
この時は「牡馬を負かすほどの圧倒的な強さ!」は感じられず、2歳牝馬の中では平均より上くらいの評価でした。
ところが、レース本番になるとウォッカがアストンマーチャンに牙をむきます!
残り200mで後方に約3~4馬身離すセーフティーリードの中、猛然とウォッカが迫ってきたのです。
ゴール版を駆け抜けたのは2頭同時。ウォッカの豪快な差し切りは、この時から開花したと思われます。
結果は首差で「ウォッカ」の勝利です。
新馬戦以来となる敗北でしたが、それでも競合ひしめく牝馬の中で2着は立派と言えます。
桜花賞でウォッカと再戦!牝馬最強の一角ダイワスカーレットと初対決
3歳になったアストンマーチャンは、次の晴れ舞台「桜花賞」に向け着々と準備を進めました。
3歳初戦のフィリーズレビューを2馬身半差で勝利すると、阪神JFで負けたウォッカが待ち構える桜花賞へ出走です。
しかし!桜花賞には、2007年~2008年のG1タイトルを多数制した牝馬「ダイワスカーレット」がいたのです。
桜花賞のオッズは、1番人気「ウォッカ:1.4倍」が支持されており、アストンマーチャンが2番人気、ダイワスカーレットが3番人気の展開でした。
桜花賞がスタートすると、9番「アマノチェリーラン」が鼻を奪い、単独1番手。ダイワスカーレットは2番手勢の中。ウォッカは中団~後方に待機。
そんな中、アストンマーチャンは「我慢できない!」と言わんばかりに単独2番手に浮上!
それを見てダイワスカーレットが、アストンマーチャンを壁に使いながら好位置をキープしたのです。
最後の直線。
ラスト200mは「アストンマーチャン」「ウォッカ」「ダイワスカーレット」3頭の追い比べになります。
ですが早めに動いたアストンマーチャンが早々にリタイア…。
ダイワスカーレットは、ウォッカの差し切りを許さず押し切ってゴール!2着に1馬身半差を付けました。
2着はウォッカ、アストンマーチャンは7着に終わったのです。
史上2頭目の偉業達成!3歳牝馬がスプリンターズステークスを制覇
調教で馬体強化!前走より10kgの増加に成功
「アストンマーチャンは短距離適性がある!」と踏んだ陣営は、NHKマイルカップ、オークスをパス!
同年9月30日に開催される「スプリンターズステークス(以下「スプリンターズS」)」への出走を決めました。
レースに向け、馬体強化に取り組んだ陣営は、調教に熱が入ります!
その甲斐あってか、前走の北九州記念に比べ「10kg」の馬体強化に成功。
桜花賞時の馬体では考えられないほど強化されており、無駄のないスプリンター体系になったのです。
スプリンターズSに猛者が集結|高松宮記念を制覇した強豪も参戦
2007年スプリンターズS当日、集まったメンバーはアストンマーチャンが戦ってきたメンバーと比較にならない猛者達です。
サンアティユ:2007年アイビスSD勝者。前哨戦のセントウルSを5馬身差の圧勝。
キングストレイル:セントライト記念、京成杯OHの勝者。短距離路線に方針転換
スズカフェニックス:2007年高松宮記念を制覇。翌年の高松宮記念も3着に好走
ローエングリーン:G1で大崩れしない安定馬。G1で勝ちきれない競馬が続く
特に、同年の高松宮記念を制覇した「スズカフェニックス」の参戦は、アストンマーチャンにとって大きな壁です。
それに、他の出走メンバーもG1で好走したメンバーや、強豪ひしめく重賞戦線で勝ち抜いてきた猛者ばかりです。
果たしてアストンマーチャンの運命やいかに?
アストンマーチャンがスプリンターズSを制覇!3歳牝馬の勝利は史上2頭目の偉業
タイトルで分かる通り、2007年のスプリンターズSは「アストンマーチャン」が勝利しました!
当日の中山競馬場は、雨が降りしきる最悪のコンディションです。まるで田んぼの中を走るように、馬場が荒れていました。
そんな中、アストンマーチャンは好スタートを切った「ローエングリーン」より先へ前へ!
なんと後方に3馬身以上付ける逃げにでたのです。
独走状態で最後の直線に入ると、アストンマーチャンは今までにない粘り強さを見せます。
後方の「サンアティユ」「アルラヴァゲイン」の猛追を振り切り、3/4馬身差で勝利したのです。
アストンマーチャンは、強豪ひしめくスプリンターズSで初のG1タイトルを手に入れました!
3歳牝馬がスプリンターズSを制したのは、1992年「ニシノフラワー」以来となる史上2頭目の偉業です。
鞍上の「中舘英二」騎手にとって、1994年にヒシアマゾンで制したエリザベス女王杯以来のG1勝利でした。
アストンマーチャンの最期|高松宮記念前の体調不良
2008年、アストンマーチャンの目標は「高松宮記念」でした。
ところが高松宮記念の1ヶ月前、突如体調を崩します。
今までの疲労が溜まって体調崩したのか?と思われていましたが、難病を発症。
栗東の競走馬診療所に入院したものの、同年4月21日、急性心不全により他界しました。
僅か4年間と言う短い期間ながら、顕彰馬の「ウォッカ」数多くのG1タイトルを得た「ダイワスカーレット」と戦い、スプリンターズSを制しました。
もし長生きしていれば、ウォッカやダイワスカーレットと並んで「牝馬による競馬界の席巻」があったかもしれません。
アストンマーチャンの子供が見られなかったのは残念ですが、これからも競馬ファンに語り継がれること間違いありません。